事実はケイザイ小説よりも奇なり

経済を、ビジネスを、小説を通じて学んでみる

帝國銀行、人事部71

しばらく電話の向こうから音が聞こえなかった。沈黙だけが続いた。そのうち、猫の声のような音が少しずつ携帯電話から聞こえていることに気付いた。裕子が泣いていた。だんだんと鳴き声は大きくなり、数分続いた。田嶋は裕子が何を考えているか分からなかっ…

帝國銀行、人事部70

結婚したのは31歳の時だ。お互いに結婚を意識してはいたが、具体的な話はしていなかった。 しかし、田嶋は銀行員で、銀行員には転勤が付きものだ。付き合ってから1年も経たないある日、突然、支店長から呼ばれ、大阪の支店への異動を言い渡された。1週間後に…

帝國銀行、人事部69

地区を統括する部長の目にかない、入社4年目で賃貸アパートの営業となった。賃貸アパートの女性営業職は他社にもほとんどおらず、裕子はアパートのオーナー達からかなり可愛がられたようだ。複数棟の建築を依頼してくれ、さらに友人を紹介してくれたオーナー…

帝國銀行、人事部68

田嶋の妻は裕子(ゆうこ)という。大手ハウスメーカーの満水ハウスに勤めている。満水ハウスはプレハブ住宅の最大手で、主に戸建と賃貸アパートの建築請負が主な業務だ。二人の間に子供はいない。 裕子とは、社会人になってから知り合った。同じ年齢で恋愛結…

帝國銀行、人事部65

銀行員は『人事が全て』と言われることもある。つらく、つまらない仕事が多いが耐え偲べば役職で報われるのだ。そして、偉くならなければ自分の意見は通せない。突然の転居を伴う異動を命ぜられることもしばしばだ。転勤一つでも家族には大きな影響かあるの…

帝國銀行、人事部64

田嶋は副部長の伊東から個室の会議室に呼ばれていた。 時刻は20時30分。そろそろ帰りたい時間だったが、急に呼ばれたのだった。今日は自宅でご飯を食べると伝えたので、妻が何かしらの準備をしてくれているはずだ。もし、食べられなくなってしまったら申し訳…

帝國銀行、人事部63

「他に質問はあるか。何でも良いぞ。伊東君が珍しく興奮しているようだが、それだけの問題なんだ」山中がハリのある太い声で話しながら、周囲を見渡す。田嶋と目が合った。何か聞け、と山中が促しているようだった。田嶋と山中は比較的仲が良い。旧行は異な…